子なしDINKsのFIRE計画に、任意後見契約が抜けていた話

以前の記事でフリーコンサルの法人化判断を検証したとき、Claudeに「DINKsで計画書に入っていないリスク」を聞いてみた。

返ってきた答えは「老後の意思決定者設計」だった。

認知症になったとき、誰が財産を管理するのか。誰が医療・施設入居の決定をするのか。子ありの夫婦なら子どもが担う場面を、DINKsは誰かが代替しなければならない——それが計画書に一切入っていなかった。


DINKs×FIRE計画の「空白地帯」

FIRE計画は「資産をいくら作るか」に集中しがちだ。数字は詰まっていても、「誰がその資産を管理するか」が抜けているケースがある。

筆者の計画書(1.6億の資産・65歳から取り崩し想定)には、次の2つが入っていなかった。

  1. 認知症・判断能力喪失時の後見人設計
  2. 施設入居費の試算

子どもがいれば自然に「子どもが後見する」という流れになりやすい。DINKsにはその流れがない。


「何もしない」と何が起きるか——任意後見契約の役割

筆者のプロンプト:

夫婦2人、子なしのDINKsです。どちらかが認知症になった場合、何もしていない状態と、任意後見契約を結んでいる状態では、何が変わりますか?

Claudeの返答(要約):

最も影響が大きいのは銀行口座と不動産です。

判断能力が失われると、本人の銀行口座は「本人確認が取れない」として凍結される銀行が増えています。配偶者が生活費を引き出そうとしても、法的な根拠がなければ窓口で断られるケースがあります。不動産の売却・名義変更も同様です。

任意後見契約があれば、配偶者が家庭裁判所に申し立てることで「後見監督人」が選任され、後見人として財産管理・医療同意・施設入居の手続きができるようになります。何もしていない場合は、家庭裁判所が「法定後見人」を選任しますが、候補者を指定できないため見知らぬ専門家が後見人になることもあります。

「銀行口座が凍結される」という問題は、自分ごとになるまで想像しにくい。資産が1億を超えていても、後見の手続きがなければその資産を動かせなくなる。


夫婦間で任意後見契約を作る方法

任意後見契約は「公正証書」として作成する必要がある。口頭や普通の書面では法的効力がない。

手続きの流れ:

ステップ 内容
① 内容を決める 誰が後見人か・財産管理・医療同意などの権限範囲
② 書類を準備する 印鑑証明・戸籍謄本など
③ 公証役場で作成 公証人が公正証書として作成(当日1〜2時間)
④ 法務局に登記 公証人が代行

費用:

方法 費用感
公証役場手数料(任意後見契約) 約1.1万円
司法書士に書類準備を依頼 +3〜8万円(推奨)
公正証書遺言と同日作成 遺言分が別途かかるが出張費1回で済む

遺言書をまだ作っていない場合、公証役場に行くついでに任意後見契約と公正証書遺言を同日に作成できる。費用は合計10〜20万円程度。1億超の資産管理コストとしては十分に見合う。


施設入居費という見落とし——「介護で支出が減る」は正しいか

もう1つの穴は施設入居費だ。筆者の計画では老後支出575万/年に介護施設費用は含まれていない。

筆者のプロンプト:

老後支出575万/年に施設入居費は含まれていません。「介護が発生したら趣味・旅行代が減るので支出は変わらない」と想定しています。この前提は正しいですか?

Claudeの返答(要約):

在宅介護(要介護1〜2の軽度)であれば成立しやすいです。趣味・旅行代が月5〜10万減り、訪問介護代が月3〜8万増える程度で、ほぼ相殺されます。

ただし施設入居が必要な中重度(要介護3以上)になると逆転します。有料老人ホームの場合、月15〜25万の追加費用が発生します。DINKsは子どもが在宅介護を担えないため、子ありの夫婦より施設入居の可能性が高くなります。

数字で整理するとこうなる。

状況 月額変化 年額変化
趣味・旅行が減る ▲5〜10万 ▲60〜120万
在宅介護(軽度) +3〜8万 +36〜96万
施設入居(中重度) +15〜25万 +180〜300万

在宅介護なら相殺が成立する。施設入居になると、年間180〜300万の追加コストが発生する。


1.6億の資産で介護費用はどこまで吸収できるか

では1.6億(65歳時点の標準シナリオ)でどこまで対応できるか。

シナリオ 追加コスト 資産への影響
1人が10年施設入居(+200万/年) 2,000万 1.4億残 → 問題なし
1人が20年施設入居(+200万/年) 4,000万 1.2億残 → 許容範囲
2人同時10年施設入居(+400万/年) 4,000万 1.2億残 → 許容範囲
2人同時20年施設入居(+400万/年) 8,000万 0.8億 → 取り崩し原資が不足する境界

通常ケースなら1.6億の資産規模は施設費を吸収できる。境界ケースは「2人が同時に認知症になり、20年以上施設入居が続く」シナリオだ。

これをゼロにするのは難しい。ただし「どこが境界か」を把握しているだけで、計画の判断が変わる。


まとめ:DINKsのFIRE計画に必要な2つの追加設計

数字を積み上げたFIRE計画でも、DINKs固有の穴が2つあった。

  1. 任意後見契約——口頭ではなく公正証書で。遺言書と同日に公証役場で作成できる。認知症になってからでは締結できないため、判断能力があるうちに。
  2. 施設入居費の試算——「支出が減る」想定は在宅介護では成立するが、施設入居では逆転する。1.6億の資産なら通常ケースは吸収できるが、2人同時20年が境界ケース。

どちらも「資産を増やす」話ではなく「増やした資産を守る・使えるようにする」設計だ。Claudeと話していると、数字の設計より「その数字を使える状況を作ること」の方が見落としやすいと気づく。

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